花の異香(いきょう) 葡萄染(えびぞめ)の袂 夜に咲いて悴んだ薄唇(うすくちびる)塞ぎ乍ら襖を開いた行燈(あんどう)が照らす白い頬には密かの涙 滲みて色付くあはれ舞い散る 夜に揺り上(あ)ぐ春を泳いで想ひ出すあなたの横顔あなただけを あなただけを幾年(いくとせ)ずっと 枯れてなお散ってなお 想ひ続けようずっとずっとあなただけを待ち続け乍ら今日もまた指切り眠る花の様に簪(かんざし)の黄金縁(こがねぶち)が剥がれる程永い淋しさにひとりきり恋忘れ(こいわすれ)の籠にて破いて花笑(え)む化粧(けわ)う一枚(ひとひら)あはれ舞い散る 夜に揺り上ぐ春を憂いで蘇るあなたのぬくもりあなただけを思ひ続けどれだけずっと 泣いたでしょう悔いたでしょう 徒花(あだばな)の様にいつもいつもあなただけを待ち続け乍ら枕辺(まくらべ)で嘯(うそぶ)き詠う籠の片隅(かたすみ)手風琴の悲しげな調べに鏡に映る姿を重ねた夜深し(よふかし)この唇はもう常空言(つねむなこと)に汚(よご)れた穢れを宿す私をあなたは忘れましたかあなただけを あなただけを幾年(いくとせ)ずっと 枯れてなお散ってなお 想ひ続けようずっとずっとあなただけを待ち続け乍ら今日もまた指切り眠る花の様に 美しくいつまででも…あなただけを…花の異香(いきょう) 葡萄染(えびぞめ)の袂 夜に咲いて